Naofumi NAKAGAWA, D.Sc. (Professor.of Laboratory. of Human Evolution Studies, Kyoto University)

Japanese

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解説:井上英治,中川尚史,南正人.野生動物の行動観察法-実践 日本の哺乳類学. 2013, 東京大学出版会,東京.

(要旨)

 野生動物の生態調査の基礎は直接観察法であり,その起源は日本の霊長類学にある.かつては「職人芸」とされたその方法について,ニホンザルをはじめニホンジカやニホンカモシカなど日本に生息する哺乳類の豊富な事例を交えて,野生動物について学ぶ人たちにわかりやすく解説する.

(主要目次)

第1部 方法編
第1章 研究計画法
1 研究のプロセス概観/2 テーマ設定、研究計画の立て方
第2章 データ収集法
1 データ収集の前に/2 行動の定義・記述方法などの諸注意/3 データ収集法
第3章 データ解析法
1 データ入力/2 データ分析/3 成果発表

第2部 実践編
第4章 生態
1 行動圏、縄張り、土地利用/2 行動の時間配分と行動カテゴリー/3 採食
第5章 社会
1 地域個体群構成/2 群れサイズ、構成、移出入、空間配置/3 社会行動/4 社会関係
第6章 繁殖
1 求愛・交尾/2 出産、育児、および子供の発達
第7章 異種間関係
1 種間競争関係と捕食・被食関係/2 花粉分散と種子散布/3 異種混群

おわりに

さらに学びたい人へ/引用文献/索引

(解説)

 「おわりに」にから抜粋改編、若干加筆したもので代用する。井上と中川は,京都大学理学部の「野外調査法(人類)」と題する生物学実習のなかで,ニホンザルの行動観察法を3回(年)生対象に教示してきた.この実習では『ニホンザルの生態と観察』(高畑由起夫著)と『Measuring Behaviour』(P. Martin & P. Bateson著)を,長年教科書として使用してきたのだが,これらがすでに絶版となり,また内容的にも若干古くなってきたことから,新しい教科書を作れればいいなあ,と話していた.そんな折,東京大学出版会の光明義文さんから中川が別の内容の本の企画のご相談を受けた.その企画自体,たいへん重要で我々としても有り難いものであったのだが類書が出版されたところであったことを理由に,我々の腹案をダメモトで提案してみた.すると予期に反して(?)前向きに検討していただけるとの回答を得た.ただし,ひとつ条件がついた.読者層を広げるために,対象動物をサルに限定せず,哺乳類全般にまで広げることである.この条件自体,我々も望むところであったが,サル以外の哺乳類を対象に研究をした経験が少ない我々だけでは正直心もとなかった.そこで南の力を借り,この難局をクリアすることにした.ちなみに南と中川は,宮城県の金華山島で,長年それぞれシカとサルを対象に研究をしてきた旧知の仲であり,行動観察の重要性についても意気投合していた.実際,執筆を開始してからはわれながら実にスムーズに進行したように思う.第1部「方法編」を先の実習を実質的に取り仕切っている井上が,第2部「成果編」のうちニホンザルについては中川が,それ以外の哺乳類については主に南が,それぞれ草稿を書き上げ,その後担当以外の箇所もそれぞれが加筆して完成させていった.そして目標としていた2013年9月開催の第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会に間に合わせることができ、著者3名で宣伝を兼ねてミニシンポジウム「野生動物の行動観察法―あなたの行動観察法はだいじょうぶ?」を企画開催するに至った.なお、背景には日本哺乳類学会におけるフィールド系の発表のほとんどが保全がらみであり、さらに純粋科学であっても直接行動観察に基づく研究発表が非常に少ないという現状を憂いていることにある。また、日本霊長類学会に関しては『日本のサル学のあした』を編集したこと、『生物科学』誌の特集記事に賛同して執筆した(中川、2013)のも合わせて言えば、その会員数が減少傾向にあることに対しての憂いがある。なんとか若い人たちに、野外の行動研究、霊長類研究の楽しさやノウハウを伝えることで、学会を若い力を導入して活性化したいという想いが、私の最近の活動を決めている。

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