第30回 「展示品の説明シリーズ:トングウェの日常品1」
「伊谷純一郎生誕100周年記念事業」で計画中の企画展では、愛知県犬山市の野外民族博物館リトルワールドから多数の展示品をお借りする予定です。そこで、『タンガニイカ湖畔』(伊谷純一郎・西田利貞・掛谷誠)をベースに、トングウェ関係の展示品を説明したいと思います。
展示品1.トングウェの土鍋(現地名nkon):直径26cm、高さ14cm、重さ1900g;伊谷純一郎収集(野外民族博物館リトルワールド蔵)
土鍋:タンザニア・マハレ山塊に住むトングウェの集落では、女性たちがロクロも使わずに、鍋や水瓶を手作りしていました
「土なべ、水がめなどはすべて手製だ。まず、粘土*をよくつくことから始まる。ついた粘土をよくこねあげて、おおまかに形を整える」(『タンガニイカ湖畔』[伊谷純一郎・西田利貞・掛谷誠、1973]92頁)*:土はシロアリ塚から採っていましたが、これは塚の土には小石が混じっていることが少なく、焼成の際に割れにくいとのことでした。
壺を作成中の女性たち:左上は、壺の口の部分の作成;左下は、作った口を胴体と接合;右上は最終的な整形、右下は焼成前の乾燥。窯などは使わず、野焼きの要領で焼成します。素焼きで、気化熱で中の水が適度な温度に冷えるなど、水瓶にぴったりです(撮影高畑)
「土器つくりは女の仕事だ。上手な人の指導のもとに、楽しく談笑しながら作業は進む」。「仕上げはまず、つるつるした石でこすって表面を滑らかにする。土器の模様はナツメヤシの若葉で編んだカネギオを、まだ柔らかい土器の表面に転がし、縄目を付けてゆく。縄文土器を思わせる手法だ」(92-94頁)
土器はキャッサバの水晒しや、アリ避けにも重宝されていました
「家の軒下に、彼らの主食キャッサバを水晒しする、大きな水瓶が並んでいる」(『タンガニイカ湖畔』91頁)。また、右のスケッチは「トウモロコシやキャッサバの粉の容器」で、「アリを避けて、部屋の隅に吊り縄でぶら下げておく」(94頁)
展示品2.ラフィアヤシ(野生のナツメヤシ)の若葉(現地名Ukindo):長さ60cm、重さ200g、伊谷純一郎収集(野外民族博物館リトルワールド蔵)
ウキンドゥ(野生のナツメヤシの新芽):ただの草の束のように見えるかもしれませんが、乾燥させたのち、細く裂いて編んだものを、さらに縫い合わせて大きな茣蓙(ムケカ)を作ります。こちらも女性たちの仕事で、町で売って小遣い稼ぎになっていました。
「ウトングウェ[トングウェの地]には、2種の重要なヤシが自生している。その一つはナツメヤシで、カソゲの森にはとくに多い。トングウェの女たちはこの新芽を摘み、干して細く裂き、ムケカとよぶ茣蓙を編む」(175頁)。
左上の写真は天日で乾燥中のウキンドウ。左下は完成したムケカ。右の2枚は、編んでいる様子(右端の写真は撮影高畑、あとは伊谷コレクション)。
「まず細長く(乾燥させた)ウキンドウを編み、それをいくつも縫い合わせてムケカ(茣蓙)をつくる。色や模様は各人の好み。だが、一様に、トングウェ文化の香りとも言うべき、重厚さを持っている」(99頁)
展示品3.樹皮ひも(現地名Musoso):高さ17cm、1350g;伊谷純一郎収集(野外民族博物館リトルワールド蔵)
樹皮ひも
「彼らは、ミオンボの樹皮で強いカンバ(ひも)をつくる。水につけて柔らかくし、建材に用いる」(62頁)。「ムトゥル(Brachystegia spiciformis)やムソソ(Brachystegia boehmii)などのミオンボ(マメ科の樹木が優占する疎開林を構成する喬木)の樹皮からは、家を建てるのに必要なひも、強靭なカンバがとれる。ミオンボ・フォレストに囲まれたMah***は、カンバ採集の絶好の地だ。湖畔の部落からの注文で樹皮を剥ぎカンバを削ぎ、それを玉のように丸めて出荷するのも、この集落の人たちの重要な仕事だ」(181頁)
樹皮ひもとトングウェの小屋
左の写真では、樹皮ひもを丸めたものを吊るして保存しています。右は「海抜2,000mのマハレ主稜にあるUja***部落の家。マコべ(竹)で組んだ家。その軒先には(鍛冶等で使う)ふいごがぶら下げてあった」(63頁)。なお、壁をよく見ると、樹皮ひもでマコべ(竹)を結わえているのがわかります。
無人の原野であったカサカティで、長期調査のための小屋を建てているところです。樹皮ひもを使って小屋の屋根の骨組みを組み立てます
ミオンボ・フォレスト
ウトングウェはミオンボの国である。ミオンボというのは特定の木の名前ではない。この地域の植生を指してミオンボ・フォレストと呼ぶが、それは正確には、ブラキステギア(Brachystegia)・ジュルベルナルディア(Julbernardia)・インベルリーニア(Isoberlinia)・ウッドランドという。これらはすべてマメ科(Fabaceae)のジャケツイバラ亜科(Caesalpinioideae)の属名で、ミオンボというのは主としてこれらの属に属する落葉喬木の総称なのであるが、これらの属の植物だけに限定されているわけではない。マメ亜科(Papilionoideae)のプテロカルプス属(Pterocarpus)やペリコピシス属(Pericopsis)、シクンシ科(Combretaceae)のテルミナリア属(Terminalia)やコムブレトゥム属(Combretum)などに属する木々も、広い意味でのミオンボの中に入れてよいのであろう。(略)ミオンボは、用途の広い木だ。ブラキステギア属の木々の樹皮は、細くさいて強靭なカンバつまりひもをつくる。また、イリンドーと呼ぶ櫃や、サンダルなどもつくる。ぺリコプシス属の枯れ木は、雨の中でも容易に火をつけることのできる優れた燃料だ。
(『タンガニイカ湖畔』172頁)
収集:伊谷純一郎、出典:『タンガニイカ湖畔』、編集:高畑由起夫
2026/2/27
(以下、次号)
お知らせ:日本モンキーセンター・リトルワールドとの協力関係
なお、すでに「記念事業」トップページにも明記されておりますが、組織委員会はこのたび公益財団法人日本モンキーセンターならびに野外民族博物館リトルワールドと、「伊谷純一郎生誕100周年事業」に関して正式に協力関係を結ぶこととなりました。あらためてこの2団体からのご協力に感謝するとともに、閲覧いただいている皆様にもお知らせする次第です。
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