マカレナ生態学研究センター
CIEM:Centro de Investigaciones Ecologica, La Macarena




場所
マカレナ生態学研究センター(CIEM)は、南米の最北端コロンビア共和国、北緯2度37分、74度3分に位置するティニグア国立公園(Parque Nacional de Tinigua)内にあります。ティニグア国立公園と隣接するマカレナ山塊国立公園の間にはドゥダ川(Rio Duda)が流れ、川沿いに3つの調査ステーションが設置されています。
西にアンデス山脈、北東にオリノコ水系、南東にアマゾン水系があり、マカレナには3つの特徴的な植物相、動物相が混在した原生の熱帯林が広がっています。森林は平地ではなく、ゆるやかな起伏がいくつも見られます。

CIEMは伊沢紘生教授(現・帝京科学大学)によって開かれたキャンプです。日本の南米隊の沿革については下記、"南米隊の調査の歴史"をご覧下さい。



:CIEM

森林
CIEMには、細い調査路以外には伐採の入っていない手付かずの森林が残されています。マカレナ周辺でも、このような森林はCIEMだけとなっています。

川沿いにはイネ科草本の草原、
Cecropia sciadophyllaの川辺林が広がり、その奥に一次林が広がっています。

CIEMは宮城教育大学の伊沢紘生教授、コロンビア・ロスアンデス大学のカルロス・メヒア教授によって運営されており、両大学を中心に共同研究が進められています。

調査地内には

・霊長類研究のためのキャンプ
・その他の哺乳類、鳥類、植物の調査のためのキャンプ
・大学の生物学および環境教育学実習のためのキャンプ

と3つのキャンプが設置され、日本人とコロンビア人研究者が盛んに調査を行なっています。





Duda川とマカレナの森




キャンプの夜。コロンビア人研究者、学生と共に


霊長類相

CIEMには6種類の昼行性霊長類と1種類の夜行性霊長類が生息しています。

Saimiri sciureus(コモンリスザル)
Cebus apella (フサオマキザル)
Callicebus ornatus (オルナートゥスティティ)
Aotus trivirgatus (ヨザル)
Alouatta seniculus (アカホエザル)
Ateles belzebuth (ケナガクモザル)
Lagothrix lagotricha (フンボルトウーリーモンキー)



餌付けされているフサオマキザル
動画はMOMOプロジェクトでご覧下さい。
データ番号:momo070411ca01b
momo070411ca02b

南米隊の調査の歴史

 日本人による新世界ザルの野外調査は1962年徳田喜三郎と和田一雄によって初めて行われたが,これは短期間の予備的なものであった.より集中的で長期的な調査は1971年度の日本モンキーセンターアマゾン調査隊(代表者:伊沢紘生)から始まる.伊沢はその後1973年度および1975年度にも調査隊を組織する.主要な調査地はアマゾン河支流のカケタ河であったが,1975年度には後に恒久調査基地が設けられることになるオリノコ源流のマカレナでも調査が行われた.協力者として徳田喜三郎が第1次隊,西邨顕達が第2・3次隊,そして水野昭憲が第3次隊に参加した.このほかに形態学者の渡辺毅が第2・3次隊,植物学者の里見信生が第2次隊に加わっている.第3次隊では個体識別に基づく本格的な社会生態学的調査が初めてセマダラタマリン(伊沢)およびウーリーモンキー(西邨)で行われ,マカレナのフサオマキザルで採食行動に関する画期的な発見があった(伊沢,水野).

 1976年度から京都大学霊長類研究所の近藤四郎を代表者とする「南米大陸における広鼻猿類の系統進化に関する研究」が開始され,1981年度まで合計4回現地調査が行われた.このプロジェクトはこれまでのものと2つの点で異なる.第1に,これまで渡辺毅だけが担当していた形態分野が拡大し,かつ,化石の発掘調査というまったく新しい分野が加わったことである.新世界ザルの形態・化石分野の研究はその後も霊長類研究所の野上裕生,次いで,瀬戸口烈司が代表者になり,高井正成,茂原信生,小林秀司等が参加して継続する.

 第2の相違は社会生態学的調査の地域が大きく拡大したことである.それまでの現地調査はコロンビア領アマゾンという限定した地域の中で未知の種の生態を知るということでやってきたが,このプロジェクトでは新世界ザル全体の系統進化上興味ある種を調査することになった.この観点から見て選ばれたのがゲルジモンキーとウーリークモザル(現在はムリキと呼ばれることが多い)である.両者とも2つの系統群の共通祖先に近いものではないかと考えられていた.ちなみにゲルジモンキーは当時の分類では新世界ザルの二大グループであるオマキザル科とマーモセット科の両者に共通する形質を有する(第3大臼歯をもちながら鉤爪をもつ)ことで知られている.いっぽうウーリークモザルはその名の通りウーリーモンキーとクモザル両方の特徴をもつ.

 伊沢紘生はゲルジを求めてペルーに行き,次いでボリビアで適地を見つけて正高信男と共に生態,行動,発達,音声に関する調査を行った.また同じ時期にこの調査地でゲルジと同所的に生息する2種のタマリンの生態を米田政明が調査した.西邨顕達はウーリークモザルの生息するブラジルの大西洋森林で適地を発見し3回調査を行った.なお,この調査地では1983年米国人研究者カレン・ストライアーがウーリークモザルの調査を開始し現在に至るまで精度の高い調査を継続している.

 1986年、伊沢は(それ以前に彼は日本モンキーセンターから宮城教育大学に移っていた)10年ぶりに調査隊を組織する.そのころは群れの構成もまったく分からないという新世界ザルは僅かになっていた.そういう種を選んで調査するより,ニホンザルやチンパンジーで行われてきたような長期継続研究から社会構造を明らかにする,ということがプロジェクトの最大の目標だった.そのために選んだ場所が彼の豊富な経験から見て南米の中で最適の調査地の一つと考えられるマカレナだった.ここでは1975-76年に水野と,その翌年には木村光伸とフサオマキザルの調査を行っている.マカレナ基地はその後2002年までまったく途切れることなく維持される.基地の運営は最初からコロンビア国,ロス・アンデス大学との密接な連携を保ちながらなされた.生物学科教授カルロス・メヒアの学生が毎年1月間実習で滞在し,1〜4名の学生が半年間卒業論文のための調査を行った.彼らの何名かは卒業後も調査を続けた.基地の維持がうまくいった大きな理由の一つはコロンビア人学生・研究者が常にいるという体制がとれたことである.マカレナ基地で行われた野外研究は3種類に分けられる.

 1.霊長類の長期研究.マカレナには7種の新世界ザルが生息し,そのいずれについても半年以上の生態学的調査がなされた.とくにフサオマキザル(伊沢)、アカホエザル(伊沢、木村)、ウーリーモンキー(西邨,パブロ・スティブンソン)およびケナガクモザル(伊沢、木村、西邨,下岡ゆき子、稲葉あぐみ)の4種は個体識別に基づいた調査が長期間集中的に行われた.

 2.森林環境の研究.様々な分野の研究者が参加した.分類学:小林 幹夫,大場 達之,セサル・ バルボーサ.森林生態学:平吹 喜彦,竹原 明秀.種子散布:湯本 貴和.パブロ・スティブンソンはウーリーモンキーの生態学的研究を行ういっぽう,調査地の樹木600種以上の果実を網羅する図鑑を作った.

 3.霊長類以外の動物の生態学的研究.主としてコロンビア人学生が行い,対象はアリ類,鳥類,コウモリ類,バク等に及んだ.鳥類の研究で優れた成果が上がっている.

 日本人による新世界ザルの生態・社会に関する本格的な研究が始まってから30数年がたった.その歴史を振り返ってみると次のような特徴が挙げられる.先ず,プロジェクトを推進してきたのは常に伊沢紘生であった.次に,最後の数年間参加者の大部分がクモザル調査に集中した最後の数年間を除けば,複数種の同時調査が普通であり,複数種の社会・生態の比較が大きなテーマであった.第3にプロジェクトの中心はサルの生態・社会の研究であったがそれに先鋭化することなく,事情が許す限り,関連分野の研究者を参加させてきた. (文責:西邨顕達・元同志社大学教授)


※現在、コロンビア共和国の政情不安により、マカレナ生態学研究センターでの調査は中止されています。
Last update: 2007/04/16 by shimooka
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