下岡 ゆき子 Yukiko SHIMOOKA


京都大学大学院 理学研究科動物学教室 人類進化論研究室
博士(理学) 教務補佐員

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研 究 内 容
  クモザルに関する社会生態学的研究


南米コロンビア共和国にあるマカレナ霊長類研究センター(CIEM)で、ケナガクモザル(Ateles belzebuth)の社会構造(離合集散性)及び、環境が社会構造に及ぼす影響について研究を行なっている。

 クモザルの社会の特徴は、約2km2という狭い行動域の中で、チンパンジーやボノボで知られているような離合集散を行なう点、また、メスが集団間を移籍する父系である点である。

 離合集散社会では、群れのメンバーは小さなパーティに分かれて活動する。1997年から群れの全個体を識別し、どのような個体同士がパーティを形成するのか、そこにはどのような季節性が見られるのかを明らかにしている。

また、パーティ同士がどのような状況下で合流や分散を繰り返し、離合集散という現象を引き起こしているのか、個体毎に遊動域の利用方法がどのように異なるのかを明らかにしている。

調査期間:1996−2002


南米エクアドル共和国にあるTiputini Biodiversity Station において、ケナガクモザル(Ateles belzebuth belzebuth) の音声に関する調査を行なっている。クモザルはロングラウドコール(Eisenberg, 1976)という大きな音声をもち、この音声は600m以上離れた地点まで届く。

この音声には大きな種差や地域差が見られることを明らかにした。今後、離合集散する社会において、この音声が離れた個体間を結ぶコミュニケーションツールとして、どのような機能を持つのかを検証する予定である。

調査予定:2005−現在




ヤシ(Oenocarpus bataua)
の果実を食べるオトナメス
動画はMOMOプロジェクトで見られます。
データ番号:momo070328ab01b





遠くまで届く音声:
ロングラウドコールを発するオトナオス
ロングラウドコール聴けます(174KB)

  ニホンザルの平和維持機構に関する研究

宮城県・金華山島に生息するニホンザルを対象に、個体間の緊張を緩和するような行動について研究を行なった。

 群れのメンバーが常に一緒に行動するニホンザルの社会では、その間に生じる様々な出来事によって個体間に緊張や軋轢が生じる。これを解消し、個体間に平和的関係をもたらすような行動が発達していると考えられる。金華山では、「ユサユサ」(ハグハグあるいはrocking-embrace behavior)と呼ばれる行動があり、毛づくろいの交替がうまく行かない時などにこの行動が行なわれ、この行動の後には平和的関係がもたらされることが明らかになった。

調査期間:1997



ユサユサをするニホンザル
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  ニホンザルの群れ内の広がりに関する研究

ニホンザルは、基本的にまとまりの良い群れを作って生活するが、時として群れが2つあるいはそれ以上に分かれる、サブグルーピングと呼ばれる現象が見られることがある。サブグルーピングは非常に個体数が多い群れや、分裂直前の群れなどで見られるが、標準的なサイズの群れでは稀な現象であり、チンパンジーやクモザルなどで日常的に見られる離合集散とは区別される。

ところが、宮城県金華山島に生息するニホンザルでは、標準サイズの、何年にも渡って安定した群れにおいても、サブグルーピングが比較的頻繁に見られることが報告されている。そこで、2人の観察者が群れ内の2個体を同時に追跡する、GPS(Global Positioning System)を用いて各個体の位置を自動的に記録する、という手法を用い、

1)群れがまとまって活動している際に、群れにはどれくらいの広がりが見られるのか、季節性は見られるのか

2)サブグルーピングと呼べるような現象は実際に起きているのか

3)サブグルーピングはどのような状況で生じるのか

を明らかにした。

調査期間:2003-2004



ニホンザルのオトナオス



雪の中のニホンザル

  チンパンジーの採食時の音声に関する研究

チンパンジーは様々な音声を発する(Goodall, 1986)。その中で、ラフグラントやパントフートは、採食と関連して発声されることが知られている(Marler and Tenaza, 1986)。ウガンダ・カリンズ森林に生息する野生のチンパンジーにおいて、採食樹での発声行動、特にフードグラントの発声が、食物の質や量を反映しているのかどうかを検討した。


調査期間:2005 (1月−2月)


対角グルーミングするチンパンジー

業 績
  論文
● SHIMOOKA Y. (2005) Sexual Differences in Ranging of Ateles belzebuth belzebuth at La Macarena, Colombia. International Journal of Primatology Vol. 26(2) 385-406.

SHIMOOKA, Y (2003) Seasonal Variation in Association Patterns of Wild Spider Monkeys (Ateles belzebuth belzebuth) at La Macarena, Colombia. Primates 44: 83-90

山極寿一、下岡ゆき子 (2002)「霊長類の日遊動距離と遊動域の推定」 熱帯林の霊長類研究のためのハンドブック第10章 霊長類研究 vol.18(3): 326-333

SHIMOOKA, Y. Long Distance Vocal Communication of Wild Spider Monkeys (Ateles belzebuth belzebuth) in Relations to Fission-Fusion Social Organization. (準備中)

● SHI
MOOKA, Y. Lethal aggression towards a male infant of Wild Spider Monkeys (Ateles belzebuth belzebuth). (準備中)
  著作
●杉浦秀樹、下岡ゆき子(in press) 霊長類の群れのかたち. 「霊長類進化の科学」 京都大学霊長類研究所(編)、京都大学学術出版会.

下岡ゆき子 (2006) コロンビア-アマゾン河源流に暮らす.  名古屋港. vol. 144 p.43-47.名古屋港利用促進協議会

下岡ゆき子 (2003) チンパンジーとクモザルにみる父系社会. in特集・文化と社会性の起源ー進化の隣人に探る.エコソフィアvol.12 p.41-48. 昭和堂

下岡ゆき子(2002)「クモザルの暮らす森―南米のフィールドから−」『フィールドノートの余白−アフリカを歩く−』加納隆至、黒田末寿、橋本千絵 編 以文社
  国際学会発表
● YAMAGIWA, J. and SHIMOOKA, Y. (2005) Life history tactics in female dispersal primates. Kyoto conference -Delphinid and Primate Social Ecology: A Comparative Discussion.Kyodai-Kaikan, Kyoto.

●SHIMOOKA, Y., SUGIURA, H., and TSUJI, Y. (2005) Subgrouping of wild Japanese macaques on Kinkazan Island - simultaneous observation on two individuals using GPS. Kyoto conference -Delphinid and Primate Social Ecology: A Comparative Discussion.Kyodai-Kaikan, Kyoto.

●SHIMOOKA, Y., SUGIURA, H., and TSUJI, Y. (2005) Subgrouping of wild Japanese macaques on Kinkazan Island - simultaneous observation on two individuals using GPS. IX International Mammalogical Congress. Sapporo, Japan. Sapporo Convention Center, Sapporo.

●KODA H., SHIMOOKA, Y.,and SUGIURA, H. (2005) Do wild Japanese macaques modify their rate of contact calls in response to the environment? GPS. IX International Mammalogical Congress. Sapporo, Japan. Sapporo Convention Center, Sapporo.

● SHIMOOKA, Y. (2004) Long call and its effect on grouping pattern in wild spider monkeys. African Great Apes: Evolution, Diversity, and Conservation. Kyoto(Kyoto Garden Palace) .

● SHIMOOKA, Y.(2002) Ranging patterns of spider monkeys (Ateles belzebuth) at La Macarena, Colombia. XIXth IPS Congress, Beijing (International Convention Center), China.
  国内学会発表
●下岡ゆき子、杉浦秀樹、辻大和(2007)金華山島のニホンザルにおける群れの広がりと発声の関連.日本生態学会大会.松山

●下岡ゆき子、Anthony DiFiore, Andres Link(2006)クモザルの音声における地域変異. 日本哺乳類学会2006年度大会. 京都

中川尚史、下岡ゆき子、西川真理、松原幹(2006) ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)で見つかった風変わりな緊張緩和行動. 日本哺乳類学会2006年度大会. 京都

下岡ゆき子、Anthony DiFiore, Andres Link(2006)クモザルの音声の地域差. 日本霊長類学会第22回大会. 大阪

中川尚史、下岡ゆき子、西川真理、松原幹 (2006) ニホンザルにおける"ハグハグ"行動パタンの地域変異.日本霊長類学会第22回大会. 大阪

下岡ゆき子、杉浦秀樹、辻大和(2005)ニホンザルの群れの広がりU:近接の維持とコミュニケーション.日本霊長類学会第21回大会.倉敷

杉浦秀樹、下岡ゆき子、辻大和(2005)ニホンザルの群れの広がりT:広がりに影響する要因.日本霊長類学会第21回大会.倉敷

香田啓貴、下岡ゆき子、辻大和(2005)野生ニホンザルにおける発声頻度の地域差.日本霊長類学会第21回大会.倉敷

杉浦秀樹、下岡ゆき子、辻大和 「ニホンザルの群れの空間的な広がり」 第51回日本生態学会釧路大会、釧路(釧路市観光国際交流センター)、2004年8月発表

下岡ゆき子、杉浦秀樹 「金華山島のニホンザルにおけるサブグルーピングについて」 日本霊長類学会第20回大会、犬山(フロイデ)2004年7月発表

下岡ゆき子 「野生クモザルのロングコールの発声について」 日本霊長類学会第19回大会、仙台(仙台市復興記念館・宮城教育大学)、2003年6月発表

下岡ゆき子「野生ケナガクモザルの遊動行動」日本霊長類学会第18回大会、東京(東京大学農学部)、2002年7月発表

下岡ゆき子「野生ケナガクモザル(Ateles belzebuth)の日内グルーピングパターン」第55回日本人類学会大会・第17回日本霊長類学会大会連合大会、京都(国立京都国際会館)、2001年7月 発表

下岡ゆき子「野生ケナガクモザル(Ateles belzebuth)のグルーピングパターン」日本霊長類学会第16回大会、名古屋(東海学園大学)、2000年7月 発表

下岡ゆき子「金華山におけるニホンザルの宥和行動」日本霊長類学会第14回大会、岡山(岡山理科大学)、1998年6月 発表
   報告
●山極寿一、下岡ゆき子、森坂匡通、杉浦秀樹、香田啓貴 2007. 「霊長類と鯨類における社会構造と音声コミュニケーションの多様性とその進化」『京都大学21世紀COEプログラム 生物多様性研究の統合のための拠点形成 Newsletter』7:26?27.

● 山極寿一、中川尚史、早石周平、下岡ゆき子、杉浦秀樹 2007. 「ニホンザルにおける性交渉パタンの多様性の進化要因」『京都大学21世紀COEプログラム 生物多様性研究の統合のための拠点形成 Newsletter』7:35-37.

KOBAYASHI, Mikio, Yukiko SHIMOOKA, Kosei IZAWA, 1999 Frugivore‐dispersed Seedling of Milpeso Palm, Oenocarpus bataua Mart., in the Neotropical Rain Forest of La Macarena, Colombia. Field Studies of Fauna and Flora La Macarena Colombia, 1999 vol.13 pp.41-46

下岡ゆき子「コロンビア・マカレナ調査値に生息する野生クモザルMB-2群の生態社会学的調査」新世界ザル・クモザルの離合集散性と適応的意味・平成9-11年度科学研究費補助金・研究成果報告書.p.37-55平成12年4月

小林幹夫、下岡ゆき子、伊沢紘生「マカレナ熱帯林の林冠構成種・ミルペソOenocarpus bataua Mart.(ヤシ科)の実生の動態と種子散布者」新世界ザル・クモザルの離合集散性と適応的意味・平成9-11年度科学研究費補助金・研究成果報告書.p.153-167平成1
2年4月
 その他
香田啓貴、下岡ゆき子、杉浦秀樹 (2005) 野生ニホンザルにおける発声頻度の地域差.京都大学21世紀COEプログラム生物多様性研究の統合のための拠点形成研究成果発表会. 京都大学、京都

下岡ゆき子(2005)宮城県金華山島のニホンザルの群れ内における個体の広がり.京都大学21世紀COEプログラム生物多様性研究の統合のための拠点形成研究成果発表会. 京都大学、京都

下岡ゆき子 (2003) 『ヒトの社会と霊長類の社会―南米アマゾンにおけるクモザルの社会構造の研究』 名古屋弁護士会弁護実務修習特別講演. 犬山 (サンパーク犬山) 2003年9月

下岡ゆき子 (2004) 『霊長類の攻撃行動と仲直り行動』 名古屋弁護士会弁護実務修習特別講演. 犬山 (サンパーク犬山) 2004年9月

Last update: 2007/04/06
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