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解説:Nakagawa, N.: Feeding Strategies of Japanese Monkeys against the Deterioration of Habitat Quality. Primates, 1989, 30:1-16.
                                       

                                                               

(要旨)

 冷温帯林に覆われる金華山島では晩秋から冬にかけてサルにとって新たに利用可能となる餌はほとんどなく、食物環境は低下する一方である。この食物環境の低下をこの季節の主要食物であるブナおよびカヤの種子の採食速度により量的に表した上でこれに対する次のようなサルの採食戦略が明らかになった。すなわち1)新たに食物パッチを開拓する、2)採食時間を延長する、3)食物品目を変える。

(解説)

 上記の結論そのものは、誰しもが予想する結果であり量的に示したものはないとはいえ、特に2)、3)についてはそれほどの工夫もなく量的なデータをとれるので評価には値しないのかもしれない。この論文でのオリジナリティーは、食物環境の質の低下の定量化にある。食物環境の定量化は、従来の方法では採食樹の果実の生産量などで行うが、この方法は手間が非常にかかる上に、実際サルが利用しない部分も評価するという欠点がある。そこで、ある年の晩秋から晩冬にかけて全採食時間の70%を占めたブナの落果の採食速度を食物環境の質の近似値として用い、それにより質の低下を示した。

 拙著『食べる速さの生態学−サルたちの採食戦略』(中川、1999)の中で、日本語で紹介しています。