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解説:Nakagawa, N. Feeding rate as valuable information in primate ecology. Primates, 50: 131-141.      

                                                               

(要旨)

本稿の英文サマリーを中川が和訳したものを以下にしるす。

本総説において,まず採食速度(乾燥重量ベースの分当たりの採食量)に関する情報を用いた野生霊長類の研究の概略を紹介する。。さらには,霊長類採食生態学において採食速度の重要性を要約する。最適採食理論は動物の採食行動を次の3つの側面から取り組んできた。1)最適パッチ選択,2)最適パッチ滞在時間,3)最適食物選択。これらの3つの側面をよりよく理解するために,採食速度,あるいはその関連指標(カロリーやたんぱく質摂取速度など)は,食物や食物パッチの質を評価するのに適当な尺度となった。さらには,採食速度は食物品目ごとに大きくことなり,採食時間は採食量の代替指標としては適当ではないため,採食量を推定するために必須の役割を演じてきた。また,採食速度は,同じパッチ,同じ品目を同時に採食している個体間でも異なっていた。体の大きさや順位に依存した採食速度の違いは,個体に戦略的な行動の選択肢をあたえた。最後に,観察が困難な状況でとられた限られた採食採食速度のデータであっても,霊長類の採食生態の理解には有効であることを議論した。

(解説)

 本稿は,日本の霊長類学60周年,日本モンキーセンター50周年を記念した特集のひとつとして寄稿したものである。私が長年,自身の研究の独自のツールとしてこだわってきた採食速度。このツールが自身も含めて,霊長類採食生態学の中でどのように利用され,その発展に貢献してきたかを振り返ってみた。同様の目的で書かれたものに,拙著『食べる速さの生態学ーサルたちの採食戦略』(1999)があるがその出版から時が経過し,決して派手ではないが,着実に採食速度の重要性の認識は広まりつつある。特に,採食速度は採食時間よりも採食量の推定に有効であること(Nakagawa, 1997),採食速度は,食物選択の基準として重要であること(中川,1996)をかなり以前から主張してきたが,それを支持する結果がその後の拙論(Nakagawa, 2008)も含めて増えてきていることは,私としては非常に喜ばしいところである。その一方で,こうした私自身の論文の内容にじゅうぶんに触れられていないことに腹立たしさを覚えることもある。よって本稿は,私に発見のプライオリティーがある部分をきちんと主張するために書いたという意味合いもあるといえる。

 本稿の冒頭では,記念特集ということで,今西錦司さんの名言「霊長類の野外研究のためには,若干の旅費は別にして,双眼鏡とノートと鉛筆さえあれば,十分なのだ。」を引用した。しかし,なぜこの言葉が選ばれたのか理解しにくいことになっている。実は,査読の過程で,学術論文の書き出しとしてはふさわしくないとして削られた文章がある。近年の霊長類の野外研究では,様々なハイテク機器が使用されるようになっているが,採食速度はあと時計さえあれば測定できる,でもじゅうぶんに有効なツールであることを説いた。この場を借りて披露させてもらう。

In recent years, field primatologists have been becoming more and more heavily equipped with modern tools: e.g., camera, video-camera, tape-, MD-, DAT- and IC-recorder, GPS-receiver, laser ranging equipment, transceiver, speaker, microphone, parabolic reflector, mobile-computer, and some storages of samples for phytochemical, hormonal, and DNA analysis. These tools provide new information with primate populations (Curtis and Setchell 2003) studied only using “three sacred treasures” for fieldworkers, i.e., a binocular, field notes, and pencils.  However, field primatologists should never forget valuable information provided only by “three sacred treasures” plus watch, the fourth sacred treasure, I believe.  It is intake rate of unit, which is obtained by counting the number of fruits, or leaves minutely ingested by a monkey.  If they collect, and bring the food samples back to the base camp, and dry them up in open air, or freeze them for preservation there, dry weight of a fruit or a leaf can be obtained after being transported to laboratory and dried up to constant weight in a dryer (see Conklin-Brittain et al. 1998; Lucas et al. 2003).  They finally get feeding rate, which is the number of fruits or leaves ingested per minutes multiplied by dry weight of a fruit or a leaf.