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解説:Nakagawa, N.; Iwamoto, T.; Yokota, N.; Soumah, A. G.: Inter-regional and inter-seasonal variations of food quality in Japanese macaques: Constraints of digestive volume and feeding time. In: Fa, J. E.; Lindburg, D. G. eds. Evolution and Ecology of Macaque Societies, Cambridge Univ. Press, Cambridge, pp.207-234, 1996.
                                       

                                                               

(要旨)

 常緑樹林帯のサルの食物と落葉樹林帯のそれとを秋と冬を中心に、カロリーおよび蛋白質含有量、およびその摂取速度を比較した。カロリー含有量はいずれの地域でも秋は冬に比べ高いが、いずれの季節でも地域間で差はない。それに対し、蛋白質含有量は、いずれの季節間地域間でも差はない。また、カロリーおよび蛋白質摂取速度は、秋は冬に比べて、またそれぞれの季節で常緑樹林帯は落葉樹林帯に比べて高い値を示した。これらのことから、これまでに報告されている冬季の食物不足は、常緑樹林帯では含有量の低さに由来するものであるが、落葉樹林帯ではこれに加えて摂取速度の低さが影響していることがわかった。言い換えれば、前者では消化管の容量が栄養摂取を制限しているのに対し、後者では時間が制限要因になっているということであった。

(解説)

 最終原稿の締め切りからなんと4年半経過して、ようやく刊行された本に掲載された論文です。常緑樹林帯のサルの食物と落葉樹林帯のそれとを秋と冬を中心に、カロリーおよび蛋白質含有量、およびその摂取速度を比較した論文です。オリジナリティーは、1)従来よく行われている栄養含有量の比較だけでなく摂取速度の比較を行い、2)それぞれの比較は結局サルの栄養摂取量を制限する因子が消化管の容量と時間のふたつ考えられることを示唆した点です。