中川尚史中川尚史 “ふつう”のサル(の)学研究室

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解説:中川尚史.霊長類の最適食物選択再考.日本生態学会誌, 1996, 46: 291-307.

(要旨)

 霊長類の食物選択において最も重要な因子は、蛋白質含有量と繊維やタンニン含有量であり、前者を最大化し後者を最小化するよう食物を選択していると考えられてきた。しかし、実はこうした成果は主に葉食者の葉選択に関しての成果に由来するものであって、果実食者の果実選択にはそのまま当てはめることはできない。他方、果実選択における化学成分含有量の影響を調べた研究は少ない。本論では果実生産量と採食量の関係を調べた研究をレビューすることにより、大きくて多量にある果実種を選ぶことにより、食物の探索や摂取に要するエネルギーや時間を節約していることが示唆された。

(解説)

 霊長類における食物選択研究のこれまでの成果を、霊長類研究者以外の国内の生態学者にもひろく知って頂くことを第一の目的として書いた総説です。もちろん単なる紹介文ではなく、まとめの第1点から第3点として書いたようなオリジナルな主張を含んでいます。ただ、これらはLeighton (1993)がすでに実践・主張していますので、本総説独自のものといえば、Leighton (1993)の主張が支持できることを、文献のレビューを通して証明したという点になるでしょう。

 「霊長類の食物選択において最も重要な因子は、蛋白質含有量と繊維やタンニン含有量であり、前者を最大化し後者を最小化するよう食物を選択している」と私を含め多くの方々が納得し、食物選択研究はほぼ終わったと感じられていた方もいらっしゃたことと思います。しかし、実はこうした成果は主に葉食者の葉選択に関しての成果であって、果実食者の果実選択にはそのまま当てはめることはできません。そしてよく調べてみると、果実選択における化学成分含有量の影響を調べた研究は意外なことに驚くほど少ないことに気づきました。そこで、Leighton (1993)は、果実選択研究においてよく用いられてきた果実生産量と選択性の関係に加えて化学成分含有量とそれとの関係を合わせて調べることにより、そして本論では果実生産量と採食量の関係を調べた研究をざっと見直すことにより、大きくて多量にある果実種を選ぶことにより、食物の探索や摂取に要するエネルギーや時間を節約しているのではないかという主張に至ったわけです。

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