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解説:Huffman MA, Nakagawa N, Go Y, Imai H, Tomonaga M. 2012. Monkyes, Apes, and Humans: Primatology in Japan, Springer, Tokyo, 52 pp (+ viii)
(要旨と解説)
本書は、京都大学生物科学専攻によるグローバルCOEプログラム『生物の多様性と進化研究のための拠点形成―ゲノムから生態系まで』(代表:阿形清和教授)(http://gcoe.biol.sci.kyoto-u.ac.jp/gcoe/index_j.php)の英語による成果本の一冊です。このことから明らかなように、タイトルから期待される内容とは異なり、別に日本の霊長類学を代表しているわけでもなく、京都大学の本プログラムの参加者の中からたまたま選ばれた5名が、自分たちが現在取り組んでいるテーマのひとつの紹介を分かりやすく英文で紹介した「だけ」の本です。共著本という体裁をとっていますが、実際上は、私が第1章(Cultural Diversity of Social Behaviors in Japanese Macaques)を、マイケル・A・ハフマンさん(霊長類研究所)が第2章(Primate Self-medication and the Treatment of Parasite Infection)を、郷康広さん、今井啓雄さん、友永雅己さん(霊長類研究所)が連名で第3章(From Genes to the Mind: Comparative Genomics and Cogonitive Science Elucidating Aspects of the Apes that Make us Humans)を執筆しています。そのことは、ハフマンさんが書いたPrefaceを読めば分かるのですが、驚くべきことに章ごとにダウンロード可能な電子版においては、それぞれの章の著者もこの5名がこの順番で並んでいるのです。電子版を見たときには唖然としました。
なんか自著の悪口めいたことを書いてしまいましたが、それぞれの内容自体は、なかなか楽しんでもらえるものに仕上がっているのではないでしょうか?以下に私の担当章だけですが、簡単に内容を紹介します。第1章は、私が比較的最近取組はじめた、ニホンザルの社会行動の文化的変異に関する研究の紹介です。文化研究は、幸島のニホンザルのイモ洗い以来、日本の霊長類学が率先して取り組んできたテーマですが、欧米の研究者も含め、多くは食と関連する行動、道具使用行動の文化であり、社会行動の文化にはあまり関心が向きませんでした。そうした状況に違和感を感じた中村美知夫さん(京都大学野生動物研究センター)は、チンパンジーの対角毛づくろいやセルフスクラッチといった社会行動の文化に着目して研究をされていました。その頃、以前から関心を持って金華山でデータをとっていたニホンザルの抱擁行動が、屋久島で若干異なるパタンをとるのを見つけ、当時、私の研究室の同僚だった中村さんの影響を受けて、これを文化的な変異とみなせばよいことに気づいたのです。残念ながらこの研究は学術論文としてはまだ発表できていないのですが、本章において、その背景とともに簡単に紹介することにしました。また、残りの誌面では、私が編集し2010年に刊行されたThe Japanese Macaquesの担当章で書いたやはりニホンザルの社会構造の地域変異についても、文化的変異である可能性も残っているのでそのことについてかいつまんで再録することにしました。私がこのテーマを選んだのは、もちろん現在取り組んでいるものであったのはもちろんですが、グローバルCOEの中では少し毛色は違っていますがテーマとなっている「多様性」を扱っていることによります。また、偶然にもニホンザルの石遊びの文化について一連の研究をリードされてきたハフマンさんに査読をして頂けることになったのは、幸運なことでした。