中川尚史中川尚史 “ふつう”のサル(の)学研究室

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解説:辻大和,中川尚史(編著).日本のサル―哺乳類学としてのニホンザル研究. 2017, 東京大学出版会,東京.

(要旨)

 東京大学出版会から出されている『日本の○○】と題する日本の哺乳類シリーズの一巻であるが、日本の在来のサルはニホンザルだけであるので、ニホンザルに関する最新の成果をその担い手である比較的若い研究者の手により紹介した本である。

(主要目次)

序 章 日本の哺乳類学とニホンザル研究の過去から現在(中川尚史) 
第I部 ニホンザル研究の再考
 第1章 食性と食物選択(澤田晶子)
 第2章 毛づくろいの行動学(上野将敬)
 第3章 亜成獣期の存在に着目した社会行動の発達(勝 野吏子)
 第4章 行動の伝播,伝承,変容と文化的地域変異(中川尚史)
 第5章 オスの生活史ならびに社会構造の共通性と多様性(川添達朗)

第II部 ニホンザル研究の新展開
 第6章 中立的・機能的遺伝子の多様性(鈴木-橋戸南美)
 第7章 四足歩行や二足歩行による身体の移動(日暮泰男)
 第8章 コミュニケーションと認知(香田啓貴)
 第9章 群れの維持メカニズム(西川真理)
 第10章 寄生虫との関わり(座馬耕一郎)
 第11章 他種との関係(辻 大和)

第III部 人間生活とニホンザル
 第12章 動物園の現状と課題(青木孝平)
 第13章 共存をめぐる現実と未来(江成広斗)
 第14章 福島第一原発災害による放射能汚染問題(羽山伸一)

終 章 これからのニホンザル研究(辻 大和)

あとがき(辻 大和・中川尚史)

(解説)

 東京大学出版会から刊行された前著『野生動物の行動観察本―実践 日本の哺乳類学』は、もともとは編集部の光明義文さんから本書の執筆依頼から始まった。たしか2012年のことである。しかしこの時は、まだSpringer社からやはりニホンザル本である『The Japanese Macaques』編集、刊行して間がなかった。光明さんからは英語本と日本語本は違うから構わないとは言われたのだが、それだけの違いで作る意欲が湧かなかったため、もう少しお待ちください、その代わりということで誕生したのが前著であった。あれから4年ほど経過し、そろそろ私の指導学生を含む新しいニホンザル研究の成果があがってきたので、新しい成果の一翼を担っている辻大和さんに協力を仰ぎ、準備にとりかかったという経緯がある。執筆者の人選については、『The Japanese Macaques』との差別化を図る意図もあって冒頭の「要旨」に書いたように、積極的に若手を起用した。もうひとつは、『The Japanese Macaques』と同じなのであるが、京都大学だけではないサル研究をアピールしたいという思惑から、多様な出自の方を選ぶことも意識した。詳しくは、序章の第2節「本書企画のコンセプト」、第3節「本書の概要と執筆者、ならびに出身研究室」をご覧いただきたい。そして、第4節の「日本の哺乳類学との関係」では、副題につけた想いが伝わるはずである。なお、私自身の担当章では、ニホンザルの「行動の伝播、伝承、変容と文化的地域変異」についてレビューしている。黎明期のサル学の主要課題であるニホンザルの文化、私自身改めてその深さを思い知らされた。

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