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解説:Nakagawa, N.: Seasonal, sex, and interspecific differences in activity time budgets and diets of Patas monkeys (Etythrocebus patas) and Tantalus monkeys (Cercopithecus aethiops tantalus), living sympatrically in northern Cameroon. Primates, 2000, 41:161-174.
(要旨と解説)
本論文は、活動時間配分と食物の種間、および雌雄間の比較研究です。残念ながら、種間比較については、Isbellがパタスがベルベット(サバンナモンキーの1亜種)に比べ移動時間が長く休息時間が短いことや、昆虫食が多いことをすでに明らかにしており、概ね追認する結果となりました。ただ本研究では、その種子やガムを利用するアカシアは、タンタルスの遊動域である川辺林から遠く離れたところにしかないため、種子やガムの利用頻度がパタスで高い値を示したという違いが見つかりました。
本研究で得られた注目すべき結果は、むしろ雌雄間比較から得られました。実は、カラマルエにおいては、パタスの出産期は乾季半ば、交尾期は雨季であるのに対し、タンタルスの出産期は雨季、交尾期は乾季半ばと全く逆転しています。そんな中、いずれの種においても雌はこの両季節に関して言えば、活動時間配分に大きな季節差はなかったのに対し、雄はぞれぞれの種の交尾期に、採食時間割合が急激に減少し、休息時間が増加するという結果が得られたのです。休息時間には、群れ外の雄や発情雌を警戒・監視する時間も含まれていることを考えると、いずれの種の雄も交尾期にはこうした時間を優先させる結果、採食時間を削らざるを得なかったと解釈でき、Schoenerの「雄は時間最小者である」という予測ときれいに一致する結果が得られました。同所的に生息する近縁2種の動物で予測通りの結果が、しかも季節としては異なる交尾期において得られた研究というのは、霊長類以外を含めても私の知る限りありません。
さらに重要な発見は、食物の性差についてです。雌が蛋白質に富む食物(パタスでは昆虫やアカシアの豆、タンタルスでは葉や花)を好み、雄が蛋白質含有量の少ない食物(果実)を好むという結果が、季節を問わず得られました。雌が授乳のために昆虫や葉など蛋白質に富む食物を好むことはよく言われている通りですが、パタスやタンタルスの場合、授乳の大半は生後半年に行われることを考えると、それぞれの交尾期において雌が蛋白質に富む食物に固執する必然性はさほどないと考えられます。それにも関わらず、交尾期においてさえ雌が雄に比べて蛋白質に富む食物を好んでいるように見えたのは、むしろ雄が交尾期において短い採食時間を補うためにカロリー含有量が高く採食速度の高い果実を好むことの副産物だと考えた方が良さそうだという主張です。雌雄の食物の違いを、食物の採食速度の違いに着目して説明したのは、少なくとも霊長類に関しては本研究が初めてのものです。
なお、本研究については、杉山幸丸先生の退官記念出版『霊長類生態学:環境と行動のダイナムズム』(京都大学学術出版会)の私の担当章「食物の種差と性差-パタスザルとタンタルスザル」(中川、2000)で、日本語で紹介しております。