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解説:中川尚史.サバンナを駆けるサル-パタスモンキーの生態と社会. 2007, 京都大学学術出版会,京都.
(要旨)
本来は森林の樹上生活者である霊長類の中で異彩を放つ存在、パタスモンキー。サバンナを時速55kmで駆け抜ける。ライオンなど多くの捕食者が蠢くサバンナへの適応だとされる。本書ではこのほかさまざまな側面で見られる彼らの適応現象について、やはりサバンナでその異彩を開花させたわれわれ人類の進化も考えながら紹介していく。 ; 時速55キロメートルで駆ける最速のサルの生活戦略とは。霊長類には珍しくサバンナに暮らすパタスモンキーの乾燥地に適応したユニークな生活を、われわれ人類の進化も考えながら、さまざまな側面から紹介する。
(目次)
はじめに
- 執筆の動機
- 本書の概要
第1章 わが憧れの地、アフリカのサバンナへ
- 遠かった研究者への道
- まだまだ遠かったアフリカ
- サバンナに向けての出発準備その一―商業港湾都市ドアラにて
- サバンナに向けての出発準備その二―首都ヤウンデにて
- 遠かったサバンナ
第2章 調査地カラマルエ国立公園
- 位置
- 気候
- 植生
- 動物相
第3章 比較採食生態学的研究
- 比較採食生態学とは
- パタスの採食生態学的研究小史
- 予備調査
- どこで食べ、どこで眠るのか(一)―遊動域が広いパタスと狭いタンタルス
- どこで食べ、どこで眠るのか(二)―主要食物、水、そして泊まり木の影響
- どこで食べ、どこで眠るのか(三)―捕食者の影響
- どの種が何を食べるのか(一)―豆やガムや昆虫を好むパタスと種子や葉や花を好むタンタルス
- どの種が何を食べるのか(二)―タンタルスに比べ高質の食物を選択利用するパタス
- パタスの食性はジャーマン・ベル原理の反証か
- 人類学への適用―パタスとホモの類似性
- どの季節に出産するのか―乾季中期に出産するパタス
- パタスの種分化―時間的生殖隔離により急速に進んだ種分化
- どちらの性が何を食べるのか(一)―妊娠・授乳のために蛋白質に富む食物を好む雌
- どちらの性が食べる時間が長いのか―交尾季に採食時間が短くなる雄
- どちらの性が何を食べるのか(二)―時間不足を補うため速く食べられる食物を好む雄
第4章 繁殖生態学的研究
- 繁殖生態学とは
- いつ出産するのか―日中に出産するパタス
- 何歳で産み始め、何年おきに産むのか―出産率の高いパタス
- 頻繁な乳母行動の説明原理―誰が育児するのか
- 音声再生実験―アカンボウの声に無差別に強く反応する雌たち
- 特殊な観察事例―他群のアカンボウさらいと乳母行動、そして遺棄
- 頻繁な乳母行動の説明原理再考
第5章 社会生態学的研究
- 社会生態学とは
- ヴァン・シャイックの社会生態学モデル
- パタスの社会学的研究小史
- 誰と親和的行動を交わすのか―野生群では順位と血縁は親和的行動に影響を及ぼすのか
- どのように敵対的交渉を交わすのか―野生群は平等的か、それとも専制的か
- カラマルエの野生群はなぜ専制的か
おわりに
引用文献
(解説)
同シリーズ(生態学ライブラリー)の前著『食べる速さの生態学-サルたちの採食戦略』は主には修士課程において金華山のニホンザルを対象に行った研究の紹介でしたが、本著は主には博士後期課程以降、細々とでも続けてきたカメルーン・カラマルエのパタスモンキーを対象に行った研究の紹介です。また研究対象の違いに加えて研究主題の幅にも大きな違いがあり、ニホンザルでは採食生態、特に”食べる速さ”に焦点を絞ってきましたが、パタスでは採食生態はもちろん、育児行動、音声、社会行動に至る「浅く広く」研究をしている点に注目して頂きたいと思います。そして、前著は私の指導教員でいらした杉山幸丸先生の定年退職に合わせた出版であったのに対し、本著は私をカラマルエに誘って下さった大沢秀行先生の定年退職に合わせた―1年遅れてしまいましたが―出版という違いもあります(価格:2,300円+税)。