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解説:中川尚史.『霊長類研究』の存在意義と和文総説の奨め.霊長類研究,2003,19:265-269.
(要旨と解説)
要旨は題目に集約されている通り、日本霊長類学会の和文機関誌であるところの『霊長類研究』の学術雑誌としての存在意義は、和文の総説を掲載することにこそあり、学会員に和文総説の執筆投稿を奨めた意見文です。
現在、『霊長類研究』に掲載されている各種記事のうち、原著や短報は原則、国際誌に掲載するべきである。他方、本稿のような意見、あるいは資料、話題などは会員間の情報交換のために不可欠であるが、その性格上ニュースレター化して査読をなくしても問題はなく、むしろそうして垣根を低くした方が投稿が活発化するでしょう。では、総説はどうでしょう。
英語を主とする外国語で書かれた情報量、そしてその情報源は増加の一途にあり、それと同調するように、霊長類学における日本の相対的地位が低下しているとの危機感があります。それぞれの学会員がその専門領域についての総説を母国語である和文で執筆掲載し、会員間で情報を共有することが、日本霊長類学会が世界の潮流に取り残されないために必須ではないでしょうか。
さて、そもそも「総説」とは何でしょう?『霊長類研究』に限らず、これが以外と関連学会学会誌の投稿規程には明記されていないのです。そこでやむなくYAHOO!JAPANの検索エンジンを使って調べてみました。以下の表は、その結果の概略を示しています(本稿からは編集の過程で削除されました)。
表.学会誌における総説の定義
検索キーワード1) |
学会誌名 |
定義のキーワードの有無2) |
引用URL |
|||||
主題 |
重要性 |
体系的 |
報告 |
論述 |
課題 |
|||
「とは」 |
鑑識科学(日本鑑識科学技術学会) |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
|
|
「とは」 |
高分子論文集(高分子学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
|
|
「とは」 |
応用生態工学(応用生態工学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
「とは」 |
洞窟学雑誌(日本洞窟学会) |
○ |
○ |
|
|
○ |
|
|
「とは」 |
自然環境復元(自然環境復元学会誌) |
○ |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
「とは」 |
安全教育学研究(日本安全教育学会) |
○ |
|
○ |
○ |
|
|
|
「は」 |
人間と環境(日本環境学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
|
|
「は」 |
農業気象(日本農業気象学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
「は」 |
植物工場学会誌(日本植物工場学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
|
|
「は」 |
日本評価研究(日本評価学会) |
○ |
|
|
○ |
|
|
|
「は」 |
日本キチン・キトサン研究(日本キチン・キトサン学会) |
○ |
|
|
|
○ |
|
|
「は」 |
育種学研究(日本育種学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
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「は」 |
日本バイオレオロジー学会誌 |
○ |
|
○ |
|
○ |
|
|
「は」 |
日本材料学会誌 |
○ |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
「は」 |
雑草研究(日本雑草学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
「は」 |
医療薬学(日本医療薬学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
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「は」 |
環境変異原研究(日本環境変異原学会) |
○ |
|
○ |
|
○ |
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1):「とは」は「総説とは」を,「は」は「総説は」を指す。
2):総説の定義としてここに例示されたようなキーワードが含まれている場合に○印で示した。「重要性」のかわりに「話題性」が,「体系的」のかわりに「総合的」,「総括」,「まとめ」,「整理」,「概観」などが,「論述」のかわりに「解説」,「検証」,「意見」,「評価」などが,「課題」のかわりに「方向性」などがそれぞれ含まれる。
つまり、一般的な定義は、「主題についての文献を集め、体系的、総合的にまとめ整理し、論述・解説・考察・意見・検証する記事」である。論述以下の各語の語義は若干異なりますが、自分の意見が入らなくてはならない点では共通しています。ただ、自分の意見が入らなくても「報告」すればよいという定義を採用している学会誌もあります。本稿では、敷居を低くするために『霊長類研究』は後者の定義を採用し、それを明記して投稿を促すことを提案しています。
また、これまで相対的に多くの総説が掲載されてきた『霊長類研究』の特集号が廃刊されたことも、今、本稿を執筆した理由のひとつです。なお、特集号における総説の多さは、やはり編集の過程で削除となった、以下の図をご覧下さい。
図 『霊長類研究』(10巻1号~19巻1号)の号毎の記事カテゴリー別掲載記事数。*は特集号。この間の1号当たりの平均値を通常号と特集号(*)に分けて併記。また,1巻~9巻の間の特集号9巻2号を除いた1号当たりの平均値を,杉山(1994)より算出して併記(**)。ただし,資料は調査・技術報告に,意見は情報・話題(翻訳含む)に含まれる。