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解説:中川尚史.『”ふつう”のサルとヒトの平行進化―類人猿からは見えてこない人類進化論』.現代思想,44: 63-75,2017.
(解説)
『現代思想』というあまり馴染みのない雑誌から特集『霊長類学の最前線(仮)』への寄稿依頼が来た。私にとっては、神戸市看護大学次代の親しくさせていただいていたフランス哲学がご専門で、メルロ=ポンティの研究をされていた松葉祥一さんが自身の論考を掲載されていたので何度か目を通した記憶がある程度の認知度であった。同誌の説明にも1973年の発刊でフランス現代思想をもっとも早くから日本に紹介してきた雑誌とあった。ただ、グロバリゼーションの中、哲学・思想、科学といった領域の先鋭な<知>の紹介はもちろん、社会、文化、政治におけるさまざまな問題も広く扱うようになっているとのことであった。依頼直前に山極壽一さんからご自身と諏訪元さんの対談が掲載された同誌2016年10月号の特集『人類の期限と進化ープレ・ヒューマンへの想像力』が送られていていたので、山極さんの企画なのだと思い合点はいったのだが、霊長類学者、文化人類学者、社会学者の方々を中心に15名が書くという以外は、ほかに誰が何を書くのかがまったく明らかにされていなかったため、正直、何を書くのがいいのか迷った。結局、本論考の題目に表れているような内容とし、拙著『”ふつう”のサルが語るヒトの起源と進化』の後継版となった。後継版とは言っても、拙著が出版されたのは2015年1月なので、ほとんどはその再録になるのだが、平行進化した可能性としてひとつ加えたのが、ニホンザルの種内変異として私が最近注目している寛容性である。この寛容性は、ヒトの進化を語る際に必ず取り上げられる慰め行動、食物分配、協力行動の源泉ともいえる形質なのである。ただ、そもそもヒトが霊長類の中で寛容的な性質を持っているのかについては、慎重に吟味せねばならない。