チンパンジーの社会


photos by M.Nakamura

 チンパンジーの社会は複数のオスと複数のメスからなる複雄複雌集団で、普通は20から100頭のメンバーが含まれる。メスは繁殖可能な年齢に達すると他の集団へ移籍する。このようにチンパンジーが父系社会であるという特徴は、社会構造という観点で、ニホンザルのようなオスが移出する母系社会との大きな相違がある。
 また、オトナオスは同じ遊動集団(パーティ)をつくる傾向があり、アルファ雄を頂点にしたこの社会的な結合はメイルクラスターと呼ばれている。それに対してメスは、このメールクラスターを核にする大きなパーティに参加して遊動するかと思うと、自分の子らと小さなパーティをつくって別遊動することも多い。それにもかかわらず、チンパンジーを個体識別したうえでパーティの構成を日々確認していくと、一般的にはそれぞれの個体が自分の帰属する単位集団を認識していることが分かる。この遊動における離合集散性は、チンパンジーの社会を考えるうえで非常に重要である。
 離合集散といっても、食物の種類や分布の季節的変化によって大きく様変わりする。一般的にいって、食物が豊富な季節はメールクラスターを核とするパーティに、メスや子の多くが加わり、単位集団の6割から9割を含む大集団で遊動することがある。マハレM集団では、その数が60-70頭になることも決して珍しくはない。そのようなとき、チンパンジーは、遊動しつつ、大きな声を交わしあう。その反面、食物が少ない季節になると、無数の小さなパーティに別れてしまい、互いに声を出しあうこともしなくなる。

オトナオスの社会関係

 基本的には、チンパンジーのオス間にはニホンザルなどと同様の順位序列が存在する。オトナオスはワカモノオスより優位である。ただし、オトナオス間では、できるだけ優劣を曖昧にしておこうとする傾向がある。一般的には、アルファ、高順位、中順位、低順位という順位区分をすれば、その階層間での優劣は明確に判断できることが多い。
 チンパンジーのオトナオスは他の性年齢クラスと比べ最も頻繁に社会的行動をおこなう。毎日のように示威行動(チャージングディスプレイ)や他のオスやメスとの毛づくろいをするのが観察できる。
 オトナオスの多く(例外も少なくはないということも強調したい)がこのような傾向を示すのは、きわめて優劣関係の確立・維持に拘泥するためと考えられている。オトナオスどうしの毛づくろいの組み合わせの変化を追っていると、たえず連合関係の形成維持が図られていることが分かる。連合によって優位者との喧嘩に勝つことすら見られる。さらには、喧嘩の当事者でないが連合に参加する第三者もまた、自分が及ぼす影響というものを理解して、自分の立場を利用することがある。



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