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解説:Nakagawa N.: Determinants of the dramatic seasonal changes in the intake of energy and protein by Japanese monkeys in a cool temperate forest. American Journal of Primatology, 1997,
(要旨)
冷温帯のニホンザルの食物条件が、秋や春が良く、冬が低く、夏は意外と低く、その中間であることをカロリー摂取量と蛋白質摂取量という観点から量的に示した。これまでの食物選択研究の流れで考えると、栄養含有量がこうした栄養摂取量に最も強く影響を及ぼしていると考えられるが、少なくとも金華山のニホンザルの場合必ずしもそうではなく乾燥重量の摂取速度であった。言い換えれば、単位時間当たり多くの量を摂取できる食物がある季節ほど、カロリー摂取量が高くなった。
(解説)
本論の内容のひとつめは、冷温帯のニホンザルの食物条件が、秋や春が良く、冬が低く、(果実の端境期に当たる)夏は意外と低く、その中間であることをカロリー摂取量と蛋白質摂取量という観点から量的に示した点です。しかし、これは従来から和田一雄先生が主張されていたことを、量的に示しただけの話に過ぎません。本論のよりオリジナルな点は、こうした栄養摂取量の季節変化に最も影響を及ぼす因子は何かを明らかにした点です。中川(1996)にあるようにこれまでの食物選択研究の流れで考えると含有量が摂取量に最も強く影響を及ぼしていると考えがちですが、少なくとも金華山のニホンザルの 場合必ずしもそうではありません。カロリー摂取量の季節変化を最も強く反映していたのは、実は乾燥重量の摂取速度でした。分かりやすく言えば、単位時間当たり多くの量を摂取できる食物がある季節ほど、カロリー摂取量が高くなるということです。では、どういう食物が単位時間当たり大量に摂取できるかと言えば、それは大きな(乾燥重量の重い)食物です。私の一連の仕事をご存じの方は「似たような話を聞いたことがあるぞ」と思われるでしょう。その通りで、この主張は金華山の秋と冬の栄養摂取量について調べたNakagawa (1989)やニホンザルの栄養摂取量の地域変異を比較したNakagawa et al.(1996)で行っておりますが、それを多変量解析を用いてより納得して頂ける形でお示しした論文と理解して頂ければ幸いです。なお、中川(1996)と合せてお目通し頂ければ、私の「摂取速度」に対する”熱い想い”、”こだわり”が伝わることと思います。なお、このこだわりの集大成がのちに出版された中川(1999)です。
拙著『食べる速さの生態学-サルたちの採食戦略』(中川、1999)の中で、日本語で紹介しています。