中川尚史中川尚史 “ふつう”のサル(の)学研究室

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解説:Agetsuma, N.; Nakagawa, N.: Effects of habitat differences on feeding behaviors of Japanese monkeys: comparison between Yakushima and Kinkazan. Primates, 1998, 39: 275-289.

(要旨)

 暖温帯常緑樹林帯に位置する鹿児島県屋久島と、冷温帯落葉樹林帯に位置する宮城県金華山、それぞれの地域のニホンザル群において、活動時間配分および食物タイプを比較した。後者は、食物の利用可能エネルギー摂取速度が低いこと、また平均気温が低いことに由来して体温維持に要するエネルギーが高いことから、採食時間が長いことが分かった。そして、金華山におけるこの長い採食時間が、休息時間だけでなく毛繕い時間の短縮を招いていることが明らかとなった。

(解説)

 1996年1月18日~19日に『ニホンザル純野生群における長期研究 その1:金華山と屋久島の比較を中心として』という統一テーマのもとに京都大学霊長類研究所・共同利用研究会において発表された一連の論文をポリッシュアップしたものをまとめてPrimates誌の特集号(39巻3号)として発行されました。特集号のタイトルは、“Japanese Macaques in Natural Habitats: Comparative Studies in Kinkazan and Yakushima”です。

 歴史の長いニホンザル研究の中で、屋久島・金華山におけるその研究史は長いものとは言えませんが、いずれも10年を越えています。そんな中、かねてより関係者はそれぞれに両個体群の比較の必要性を感じておりましたが、京都大学の山極寿一さんの音頭でようやく実現したのが前述の研究会でした。研究会および特集号において発表された研究は、いずれも現在手持ちのデータの中で直接比較が可能なもののみを拾い上げたものであって、新たにデータを取ったものではありません。よって、基礎的な資料の比較にとどまってはいます。しかしだからこそ、こうしたラフな比較においても浮かび上がってくる相違点に着目して、本編、ならびにNakagawa (1998)のみならず、特集号掲載の一連の論文をお読み頂ければありがたく思います。

 拙著『食べる速さの生態学-サルたちの採食戦略』(中川、1999)の中で、日本語で紹介しています。

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