チンパンジーの長期野外研究


チンパンジーの主な調査地(青丸はボノボ)

 日本人によるチンパンジーの野外研究の歴史は、1961年に今西錦司に組織された第一次京都大学アフリカ類人猿学術調査隊によって始まった。当時、タンザニア西部、タンガニイカ湖畔のゴンベでは、化石人類学者ルイス・リーキーが派遣したジェーン・グドールによって、まさに野生チンパンジー調査が軌道に乗り始めたところであった。京大隊は1961–1963年はカボコ基地、1963年後半からカサカティ基地で調査を行なった(いずれもゴンベより南方に位置する)。1965年には、伊谷純一郎隊長のもと、伊沢紘生、加納隆至、西田利貞の三人の大学院生が、それぞれカサカティ、フィラバンガ、マハレの三か所に別れてチンパンジーを人に慣れさせる試みを行なった。結局、人里近くに現れては畑を荒らすことを知っていたマハレのカソゲ地区のチンパンジーが餌づけされ詳細な行動研究が開始された。それ以来、マハレはゴンベと並ぶ野生チンパンジーの長期調査地として多くの成果を提供してきた。
 チンパンジーは、西アフリカのセネガルから東アフリカのウガンダ、タンザニアにかけて広く分布しており、四つの亜種に分類されている。チンパンジーのような柔軟な行動様式を持つ動物は、様々な生息域で調査して初めてその多様性に富んだ生活を明らかにできるといえよう。ゴンベ、マハレのチンパンジーは、チンパンジーの分布としては最東端の亜種Pan troglodytes schweinfurthiiに属する。この他に、ウガンダのブドンゴ、キバレ、カリンズ、コンゴ民主共和国のカフジ、タンザニアのウガラなどでも精力的な研究がおこなわれている。
 その他の亜種のうちP. t. verusは、1976年から杉山幸丸によってギニアのボッソウにて、また1979年以来ボッシュ夫妻によりコートジボアールのタイにて継続調査が行なわれている。P. t. troglodytesの生息地の多くには、ゴリラとチンパンジーが同所的に生息する。ガボンのロペ、プチロアンゴ、ムカラバ、コンゴ共和国のンドキなどでゴリラとチンパンジーの長期研究がなされている。チンパンジーの近縁種であるボノボ(ピグミーチンパンジー)Pan paniscusも、1974年以降、コンゴ民主共和国のワンバにおいて継続調査が行われている。1990年代に内戦のため、調査が中断されたが最近再開された。  チンパンジーをできるだけ自然に近い環境下で観察することにより、人間に解剖学的・系統的に大変近いとされるチンパンジーの行動、生態、社会などの実態が次々と解明されてきた。その中には、ここでわずかながら紹介する道具使用薬草利用のように、かつて人間だけが行うと考えられてきた常識をも覆す成果が含まれる。また、離合集散する単位集団の発見、雌が移出し雄が出自集団に残る社会システム、雄同士の関係における政治的社会交渉、肉食分配行動、子殺しなどの数々のチンパンジーの姿を浮き彫りにする成果が得られている。



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